葛根田川北ノ又沢〜秋取沢(明通沢) (雫石町) ■Home |
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昨日たまたま電話が開通したばかりという滝峡荘(リュウキョウソウ)は秘湯と呼ぶに相応しい山間いの自炊宿で、
こんこんと湧き出るラジウムの湯が最高である。
持ち込んだジンギスカンをつつきながら一杯やるとみんな疲れて早々にダウン。
今朝は3時に目が覚め、一風呂浴びて外に出ると満天の星が煌いていた。
公共駐車場を6時前に出発する。
山間いのあちこちから蒸気が上がり、地熱発電所のパイプが延々と張り巡らされていた。
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道を少し行き過ぎ最終砂防を200m程超えた辺りで入渓する。 竿を持った人の姿をちらほら見掛けるが釣りのメッカにしては魚影のない沢である。 広い川原を淡々と進むと水はやがて南国の海にでも来たようなコバルトブルーに輝き出す。 砂に見えるのは白っぽい岩盤で深さが分からないほど透き通っている。 |
入って程なく高さ70mより流れ落ちる末広がりの滝に目を見張る。 スカートを広げた貴婦人のようにも見え、今までこんな大きなスラブ滝は見たことがない。 |
沢中を美しく彩るダイモンジソウ、こちらのは種が違うのか「大」の字がやけに大きくクッキリしている。
そこかしこに咲く美しい白い花が満開でその他にも種類は少ないが秋の花が咲いていた。
左岸から入るこのスラブ滝も美しく、さらさら流れる水の文様が見事である。
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両岸立ったゴルジュ帯へ突入する。
中はダムの様に満々と水を湛えゆったり流れている。
見るからに深くコバルトブルーと言うよりラムネの瓶のような色でぞくぞくする光景である。
時に激しく飛沫を上げる滝など変化があって楽しいが、
宿の主人が「葛根田川は雨が降ると一気に増水するので気を付けて下さい」と言ってたのを思い出す。
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ゴルジュの途中にある滝、釜の底が透けて見えるので一見浅そうだが背の立たぬ深さだ。 しばし立ち止まってはカメラのシャッターを押す回数が増えてくる。 |
ゴルジュを抜けると再び優しい表情に戻り、深い瀞を右に左にへつりで通過する。
この時期のドボンは辛いのでみんな真剣だが幸い岩質は全く滑らない。
それにしても綺麗なコバルトブルーの水路だ、自然の造形美に感動する。
光の加減によってコバルトブルーやエメラルドグリーンに変化し、
ぶなのエキスが水に染み込んでるのか様々な色合いを見せる。
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東北の秀渓と呼ばれるだけあってぶなの原生林の中に美しいナメ床とナメ滝が続く。
左右の山肌に大きなナメの岩壁も露呈し、
水が気の遠くなる年月をかけてこの幻想的な峡谷を作ったものと想像する。
沢岸にオクトリカブトの群落が見事、トリカブトの中では2番目に毒性が強く、
美しい花には毒があるとはよく言ったものだ。
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各支流が滝になって入り地形図と睨めっこの遡行となる。 そしてc790で断崖の奥に葛根田川大滝15mが現れる。 手前に2段の滝があって大きな釜を持ち、取り合えず滝下まで行き写真に収める。 これを直登する人もいるようだが素直にパスし左岸の踏み後を高巻く。 滝口から下を覗くと結構な高さだ。 ふと滝下に単独者が見え、一段下がれば良いのに危なげな左岸の崖を登り始めた。 上の潅木に漸く手が届きほっとする。 |
ドンヨリと雲が覆い、ポツポツ降り始めたと思ったら雨脚が強くなってきた。
雨を警戒して出発を一日延ばしたのにどうもスッキリしない天気だ。
幸い空が明るく大崩はなさそう、じっとしてると寒いので止む前に出発する。
途中、増水したらひとたまりもなさそうな場所に幕営したばかりの跡があった。
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滝ノ又沢の出合いで水量が半減し、ここから葛根田川は名前を変えて北ノ又沢になる。
小滝を越えると855mの二股で水量1:2、ここは水量の少ない左俣に入る。
入り口が6mの滝になり薄暗いゴルジュ形の中に数mの滝が続いて標高を上げるとやがてくねくねした単調なゴーロになる。
930mを右俣に入ってすぐナメナメ天国到来、ペロンとした滝と綺麗なお釜が連続しニコニコ顔で標高を上る。
1000mの左岸に見上げる一大スラブ壁は見事だ、圧倒される高さから水が滴り落ちる。
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水が細くなって源頭の雰囲気が近づくと1050mの二股で忽然と大きなナメ滝が目に飛び込んで来た。
左に入るとハングしたボロボロの小滝に拒まれ、地図を取り出すとどうも進む方向がおかしい。
戻って再び20mのナメ滝を前にどうやらこれが正解のようである。
中段まで上がると棚が斜上し、これを伝って登れそうだったが右岸に踏み跡が延びていた。
なかなか際どい高巻きで最後は木登り状態で滝上に出る。
次に2段8mのナメ滝が現れ、左岸のバンドから上がり、上段は立ち木を掴んで直登する。
難しくはないが初めてザイルを出した。
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1050mの二股を右に進み、フリクションを効かせノッペリしたスラブ滝8mを直登する。
滝らしいのはこれで終わり、ちょろちょろの小沢を左、左と進み藪漕ぎ無しで1168mピーク東の従走路に出る。
ヌルヌル滑る登山道はあまり快適とは言えないがやがて広い湿原に出ると静かな佇まいに葉を秋色にしたオヤマリンドウとアザミ、
紅色の花穂をつけたナガボノアカワレモコウが沢山咲いていた。
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八瀬森山荘はてっきり貸切かと思ったら一階は東京からの登山グループで一杯だった。
単独者と我々5名、あとから来た3名が二階を占有する格好で落ち着く。
小屋の中には布団や毛布が揃って暖かく、外は星が輝いていた。
豚汁を食べてお腹を満たすと眠くて目を開けていられないが、酒を消化し19時半に就寝する。
翌朝は早々と下の団体が八幡平へと出発し、我々も一本早いフェリーに間に合うよう日の出前に出発した。
霜が降りて足が冷たく、15分も歩くと空が白んでヘッデンの要らない明るさになってきた。
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途中の関東森で先の団体を追い抜き、小屋から1時間半で草原の様な1,283m地点に到着する。
霧が晴れて青空が広がり、朝陽が射し込む草原からは八幡平へと続く尾根に諸檜岳か畚岳と思われる尖がりが望まれた。
湿原には小さな沼がある筈だが分からず、更に道を少し進んだ辺りで明通沢左股へと笹藪を分ける。
地形が複雑でくねくね曲がりくねった沢筋は水が出るまで灌木が煩しい。
小さな流れが合流しやがて小滝とバスタブの様な釜が現れ、こちらも期待できる沢だと分かるのに時間が掛からない。
初っ端の6mの滝はザイルを出さず、右岸を巻いて下った。
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明通沢は葛根田川に負けず劣らず渓相が良く、白いナメ床にスラブ滝、綺麗な釜が面白いように続く。 枝沢の殆どがナメや滝になって合流するのを見ると山塊全体が広範囲に渡って岩盤に覆われているものと想像され、 周辺の山域を含め遡行記録が多い。 |
6mの滝は左岸の立木に残置シュリンゲを見付け懸垂下降する。
すぐ下にも6mのナメ滝があってこれは右岸の灌木と笹を掴んでクライムダウンした。
ザイルを仕舞う間もなく現れる滝、いやはや実に楽しく明るい沢である。
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そして950mで15m強の大滝が待ち受ける。 支点になるブナの木が落ち口から7-8m手前にあり、30mと20mのザイルを繋いで懸垂下降する。 下は釜なので着水する手前でザイルを解除、あとは浅瀬までへつりお尻まで浸かって着水という感じだ。 高度感たっぷりでなかなかスリリングな滝だった。 |
大滝のすぐ下にも6mの滝があり左岸からゴボウで下る。
930m二股は白いナメに明通沢右股の赤いナメが入り、紅白の岩盤が面白い。
そこから右岸・左岸の高所にしっとり濡れた大壁を見ながら下降を続け、
810mに架かる橋で遡行を終了、あとは廃道になった林道を下った。
林道の途中で先を行くAさんが突然、「熊だぁ〜」と後退り、親子熊まで距離にして数mもなかったらしい。
途中、山ブドウと落葉をゲットし再び長いパイプに迎えられ公共駐車場に戻った。
玄武温泉でサッパリし八戸から17時半のフェリーで帰札する。
初日の岩手山、そして美しい葛根田川と明通沢の遡行、楽しさ一杯の東北遠征だった。
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