白銀壮前で身支度しているとこの春に単身生活を終え東京に戻られるというNさんに会った。
装備が無いので何処まで登れるか分からないと言う彼と相前後してスタートする。
日焼けが気になるほど強烈な陽射しを浴びまるでGWの春山ような陽気である。
まずは富良野川を越え前十勝岳に残るシュプールを横目にだだっ広い雪面を登っていく。
非難小屋の跡に立つ観測塔が遠くに見え先行するパーティーが夏道方向に進んでいった。
雪の付いた谷ルートの方がスキーで滑って帰れると言うので大正火口の北側に出る広い沢形を登ることにした。
早々とクトーを付け急斜を登っていくと今年は小雪のせいか岩が所々に頭を出していた。
夏道の方はゴツゴツした岩が目立ち去年の12月に初冬訓練をおこなった時と同じ様な状態に見えた。
あの時は二日目に山頂を目指したが吹雪きで断念し今日の陽気からは想像できない程の寒さだった。
大正火口の噴煙近くを通りグランド火口の中から斜上して夏道ルートに出ると先行していた筈のパーティーがいつの間にか後ろにいる。
Nさんは一人そのまま火口の中を進みどうやら傾斜の緩い右回りに頂上を目指す算段らしい。
明日予定の富良野岳に疲れが残らぬペースと思いながらもこのメンバーでは無理だった。
Kさんの額からは大粒の汗が流れ、下山して旨いビールを飲みたい一心でペースを落とす気など更々ないようだ。
Cさんはいつものようにぴったり後を付きTさんは少し離れマイペースで登ってくる。
グランド火口の十勝岳ピーク側は雪庇の出た崖だが外輪から底へは涎の出そうなスロープである。
雪の状態によっては転んだら滑落しそうな急斜だが此れを滑ったらさぞ気持ちが良いことだろう。
山頂へは大きく左から回りこみシュカブラになった雪面をスキーで登るとタッチの差でNさんが先に着いていた。
快晴の元に十勝連峰をはじめトムラ・表大雪・東大雪の山々がまる見えだ。
山頂標識から風下に待避しまずは乾杯、気温が4度で長居の出来る暖かさである。