このピークから少し先に平らな良いテン場があったが重装備を担いでまで上がる必要はないと思う。
視界が開けると独立峰のような険しい862峰が目に飛び込み、近寄りがたい岩峰である。
コルへ登るルートも何だかはっきりせず何処も結構な急斜面である。
結局、尾根を直登するが雪が切れるたびハイマツ漕ぎの連続で知らぬ間に脛は傷だらけになっていた。
細尾根の両側は急斜面で、中腹の岩峰は亀裂の走る東斜面を慎重にトラバースした。
雪面はステップが切り易いのでどんどん登れるがハイマツが出るたび頭がくらくらする思いだった。
稜線の向こうに硫黄山と知円別岳が顔を覗かせ、ずいぶん遠くに見えたが懐かしさに思わず声が上がった。
斜面が次第に緩くなると突然視界が開け広い台地に出る。
雪面に広がる白と黒のモノトーンはまさに「最涯ての地」にふさわしい景観である。
稜線では強烈な風とガスに見舞われ次々に難題が降りかかって簡単にピークを踏ませてくれない。
防寒服にガッチリ身を固めこまめにデポ旗を打って前進し、ようやく一段高いピークに到着する。
台風並みの風と視界不良で山頂探しもままならずここをピークとして下山した。
下のハイ松まで戻ると風が弱まり目印のテープを全て回収しながらザラメ状の尾根を一気に下った。
テントを回収し浜辺を歩いていると地元の漁師が何やら笑いながら話しかけて来た。
「昨日川で転んでずぶ濡れで降りてきた奴らがいてよ、そいつら千歳の○○○のくせにだらしねえな〜」
我々と同じミスをして渡渉で転んだなと容易に想像は付いたが気の毒で笑う気になれなかった。