日高の主稜線から外れたナメワッカ岳は道内で一二を競う奥深い山である。
かつては主稜線から踏み分け道があったらしいが今はその痕跡を残すのみであり、
日高横断道路建設中止の煽りで沢からのルートも絶たれてしまった。
去年は新冠川とベッピリガイ沢を繋ぐアプローチで挑んだものの時間切れ撤退である。
次回は正攻法で稜線から残雪を踏む積もりだったが行き当たりばったりの藪漕ぎでリベンジを狙うことにした。
日の短い時期だけにビバークだけは避けたいがはたしてナメワッカ岳までどんな道のりか気掛かりである。
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主陵線より外れ遠く佇むナメワッカ岳、札内JPより 1766ピークからはナメワッカ岳がぐんと近づいた まさかテンバがあるとは!遅れたメンバーを待つ
9/23晴れ 前夜剣小屋に入り3時半に起床、身支度して戸蔦別川林道へ向う。
びれい橋の先にあるゲートにはエサオマンに向うパーティが準備中で挨拶を交わし先に出発した。
荒れた林道を1時間20分歩いてエサオマントッタベツ川に入渓、
水量はいつもの半分で普段は水に洗われてる岩盤が露出し新鮮な感じがする。
1000m上二股を過ぎ尚も単調な遡行だがやがて一枚岩の滑滝が見えてきた。
手始めに2段の斜滝20mがあり巻き道を使わず中に入って手掛かり豊富な左岸壁を登る。
そして長い滑滝を登り切って北東カールに出ると紅葉が進んでとても綺麗だった。
ここで2名は靴を履き替え沢靴と装備をデポ、私はスパイク地下足袋のまま出発する。
各自5リットルの水を担いで左端のルンゼからカール壁を登り漸く札内JPに出た。
これでもかって言うほど日高の山並みが続いて気分が高揚してくる。
この絶景を初めて見るSさんはしばらく興奮し、そしてナメワッカ岳まで登山道が無いのを知り愕然としていた。
ここから見るナメワッカ岳は山並みの奥にひっそり佇みはたして明日辿り着けるかと思うほど遠かった。
主陵線を南下する踏み跡は以前より歩き難く1751ピーク前後は笹が覆って幾度か道を見失う。
出発から10時間半みんなヘトヘトになって痩せ尾根が合流するナメワッカ分岐に到着した。
ナメワッカ岳を真正面に見据える小さなテン床が二つあった。
「明日行くから待ってろよ〜」気が遠くなるようなハイマツを見ながら空元気を出すのが精一杯だった。
右のベッピリガイ沢と左のシュンベツ川源頭から吹き上がる風が寒くて堪らない。
晩飯はお茶漬けなど各自適当に済ませ19時早々に就寝、
風が一晩中テントを揺すり夜中外に出ると月明かりで三方向に町の灯が見えていた。
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山頂到着、後方は台形のもう一方のピークで若干高い 日高で一番遠い山に登った満足感で一杯である テンバへ戻る途中、後方1766ピークとナメワッカ岳
9/24晴れ時々曇り 3時半起床、オシッコに出たKさんが「真っ白だわ」って叫んでいる。
続けて外に出てみると何と冠雪し出鼻を挫かれそうな寒さだった。
風が強く僅か数分の用足しで手がかじかみやる気が失せてしまった。
取り合えず朝飯を食べ明るくなるまで出発を遅らせる。
少し風が収まり中止と思い込んでるSさんに出発を促し自らも尻を叩いて身支度を始めた。
外に放り出したままの地下足袋がカチカチに凍ってたのには参った。
ガスで柔らかくし5時半過ぎ出発する。
手足が冷たくて切ない。
着膨れしたSさんが尾根を下降して早々ハイマツに足を取られ転倒する。
ナメワッカ岳に向う尾根上はずっとハイマツに覆われ、踏み跡なんて無いものと思っていたが時々枝にノコ目が入って僅かな跡が残っていた。
上半身をハイマツの上に出し枝を押し分け、掻き分け、踏み付けながら亀の如く進むしかなかった。
それでも1766ピークまで割と順調だったがここから潅木が人の背丈を越える。
すぐ次のポコにテン床があり驚くやら呆れるやら、よくこんな所までテントを担いだものである。
ハイマツは1620までの間が一番手強くこれを過ぎると尾根の北斜面に獣道が延びていた。
藪漕ぎとこの獣道を交互に辿ると嬉しいことに山頂がみるみる近づき始めた。
いよいよコルから山頂まで最後の登りを残すのみ、道があったら15分程の距離だが1時間近く掛かりそうである。
残り100mを切るとテントを張れそうな草地が広がり寒さに耐えて咲いてるリンドウが迎えてくれた。
いつもは見過ごしてしまう花だが何だかほっとした気持ちになった。
登山道のような明瞭な道が北斜面の草付きにジグを切りながら頂まで続き楽させて貰う。
この斜面一帯はお花畑のようで熊のツメ跡がくっきり残る掘り返しと落し物が至る所にあった。
どうやら熊道を辿ったようである。
山頂には誰かが持ち込んだ小さな標識が置かれ三角点は見付からなかった。
日高で一番遠い山に登った満足感で一杯である、もう二度と見ることのない展望を目に焼き付けた。
復路も同じハイマツに苦しめられたが出発から9時間でテンバに戻れ再び嬉しさが込み上げた。
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ナメワッカ岳の山頂から日高山脈中部の累々とした山並みを望んだ、おそらくもう二度と見ることのない景色である
9/25 曇り時々晴れ 4時起床、今朝は昨日ほど寒さを感じない。
ちんたら主陵線を戻るだけだが昨夜は調子こいてお湯割りを飲み過ぎ水が200mlしか残ってないのが悲しい。
国境陵線の十勝側には雲海が広がって雲が滝の様に流れ込んでいる。
十勝側のハイマツに霜が着き、幌尻岳と戸蔦別岳も薄っすらと白みがかっていた。
エサオマンに寄らず真直ぐ北東カールに下るとデポした二人の沢シューズが凍って泣きながら履いていた。
長い沢下りにほどほど飽きがくる頃に林道となりホットする。
帰りに寄った風呂の湯が脚のすり傷に沁みた。
日の短い時期の藪漕ぎが気掛かりだったが3日間の行動時間は概ね10時間、9時間、8時間と順調だった。
あの寒さだけは予想外だったが葉の茂る鬱陶しい藪を漕ぐよりましだったかも知れない。
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<去年のナメワッカ岳西面直登沢〜ナメワッカ岳はこちら>