槍ヶ岳〜大キレット〜奥穂高岳〜 ジャンダルム 地図はこちら ■Home |
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<7/31 晴のち曇 上高地〜槍ヶ岳〜槍ヶ岳山荘> 3日間投宿した奥飛騨温泉郷からも槍ヶ岳に登るルートはあるが、 本当に山岳拠点なのかと思わせるほどバスやロープウエイの始発が遅い。 一刻も早く山に入りたくてうずうずしてたのと、 まだ上高地に行ったことのないカナちゃんにあのアルペン的な景観を見せてやりたくて 平湯から直通バスで入ることにした。 バスは安房トンネルを抜けさらに釜トンネルを出ると焼岳、大正池が見えてくる。 久しぶりの上高地だ、気分が高揚してくる。 カッパ橋で記念写真を撮ったり、梓川の澄みきった清流や前穂高岳、明神岳の景観に歓声を上げる姿が微笑ましい。 後で分かったが飛騨沢ルートは滝谷の橋が流され渡渉できなかったと云うから 向こう周りでなくて良かったと胸を撫で下ろした。 |
まだ時間が早いせいか登山者の姿が少なく代りに人馴れした猿が時々姿を見せる。 じき槍ヶ岳からの下山者と行き交うと 「昨日は強風とガスで何も見えなかったが今朝は待った甲斐があり素晴らしい展望だった」 と口を揃えて言う。 大曲りを過ぎると坊主岩小屋まで雪渓が残り、ハクサンイチゲ、キンバイ、チングルマ、キバナなど北海道でもお馴染みの花々が見頃を迎えていた。 いよいよ槍の穂先が姿を見せるがなかなか近くならない、 上高地から槍ヶ岳までは標高で1600m、距離が20kmもあり装備が軽くてもそれなりに堪える。 西の方からガスが押し寄せ「青空のうちに急げっ!」 と暗黙の激が飛ぶが足が重くて気が焦るのみだった。 |
何とまあ、槍ヶ岳山荘に着いたらガスが掛かり始め、 列をなさぬまでも梯子や鎖場で待たされてる内にすっかり白くなってしまった。 槍は三度目だが今まで一度もすっきりした展望に恵まれたことがない。 明朝こそは田部井淳子さんと内多アナウンサーが涙したような御来光を拝んでみたいものである。 槍ヶ岳山荘は三食付で一万円ぽっきり、 収容人員650人のところ今日は200人程で布団が一つ置きに使えてあずましい。 隣に単独でキレットを予定する女性と居合わせたが何と山に一人で来たのが初めてとのこと、その度胸の良さに感心する。 |
<8/1 雨のち曇 槍ヶ岳山荘〜南岳〜キレット〜穂高山荘> 未明からゴロゴロ雷の音で目が覚め厭な予感だ、 小屋のトイレから外を窺うと本降りの雨に呆然とする。 明るくなって外に出てみたが風が付いて一向に止む気配がなく、 そんな中を隣にいたS女さんが南岳に出発したと聞いて驚いた。 宿泊者の殆どが下山するか停滞を決める中でじりじり出発のタイミングを窺ってると、 長野県警の若い駐在さんが腕を広げて制止する真似を見せ 「まさかこの天気でキレットに向う積りじゃないですよね、 暇で良い按配なのに騒動おこされるのは勘弁ですよ」と念を押される。 「そのまさかの積りだがこの雨でどうしようか迷ってる状況だ・・・」 とも言えず、うわの空で聞き流して様子見に入る。 暫くすると雨が弱まってきたので出発したが飛騨側からの風で右半身が寒く、 南アルプスの遭難事故が何度も脳裏に浮かぶ。 中まで濡れないまともなカッパが欲しいな・・・、 ふと風下に目を向けると雷鳥のつがいが心配そうにじっとこちらを見ていた。 |
南岳小屋の管理人が「こんな天気に女性が一人で来る訳ないでしょ!」と言うのでおそらくS女さんは下山したと思われた。 ここは谷から吹き上げる風が強烈で外に出るとたちまち体が冷え切ってしまう。 小屋のストーブに当たりながら、 キレットに突入するか撤退するか逡巡してるとたまたま居合わせた地元のベテラン山岳救助隊員から 「今日はすれ違う人も居ねえだろうからキレットを通るなら好都合だ、風も大方信州側を巻くから当たらねえだろう・・」 また止められるのかと思ったら百人力とも思える言葉に背中を押されて出発した。 |
キレットを通るのは二度目で前回も小雨の中で感じ悪かったのを思い出す。 北さんは三度目とのことだった。 流石にベテランガイドの言った通り歩くのは信州側が主で風の影響が少なくてほっとする。 そして雨から霧に変わったらもうこっちの物、風があるせいで岩の乾きも早かった。 後にも先にも人を見かけたのは一人だけだったが 長谷川ピークの手前ですれ違った男性に、誰か他に見かけなかったか訪ねると? 女性が一人で歩いてたと言うので思わず顔を見合わせた。 「やっぱり行ったんだ!・・・」 |
A沢ノコルで槍ヶ岳山荘の弁当包を開け一口頬張るなり、 北さんが「これっていつもの五目アルファ米と変わらないですね・・」とぽつり、 いくら山小屋の食事とはいえ1000円も取って殿様商売してるなって感じである。 それにしても朝食を弁当にしなくて良かった。 同じものを二個も持たされたんじゃかなわない。 急に視界が得られ辿った長谷川ピークの景観を楽しみながら一休みする。 |
一枚岩に鎖が垂れる飛騨泣きの始まりである。 登り切って暫くすると飛騨側が100mほどスッパリ切れ落ちるナイフリッジを通過する。 この飛騨泣きは大キレットでも一番の難所と言われているがクサリとステップが施こされ何てことなく通過する。 そしていよいよ350mの岩登りでフィニッシュを迎える。 ここは落石が多い場所だが今日は上に誰も居ないと思うと気が楽だった。 |
見上げる北穂高小屋のテラスに見覚えのある女性が立っていた。 名前を呼ぶと驚いた様子で、こちらに手を振ってくる。 僅か半日ぶりの再会だがとても懐かしく感じられる。 この小屋は静かな雰囲気を楽しむといった感じで何となくオシャレっぽく、 テラスでは食事をしながら涸沢を始め表銀座コースの展望が楽しめる。 他人の食べてるみそラーメンがとても美味そうに見える。 あの弁当と同じくらいの値段じゃないだろうか? しつこいようだがあの弁当は本当に酷いと思う・・・ |
北穂高岳から奥穂高岳へは未踏で楽しみ、 大キレットを抜け少し安心してたが北穂高岳からの下りも結構なものだった。 涸沢岳との中間に古びた「最低コル」の標識、 下って来たばかりの北穂高岳(左上)を眺むと見渡す限り岩、岩、岩だらけ、 向う涸沢岳(右上)も限りなく岩が続いている。 ここから梯子・鎖場を登り切ると涸沢岳の山頂で、 賑わう北アルプスの山々の中にあって少しマイナーな感じが良い。 前穂高岳が雲に隠れて残念、眼下の赤い屋根は穂高岳山荘と奥穂高岳、 そして岩陵の連なる先にジャンダルム(右下)が目に留まる。 まさに要塞の様な格好で登ったらちょっと自慢したくなるような景観だった。 |
天気のせいかハイシーズンにも拘わらず穂高岳山荘は空いていた。 案内された二階の部屋には1から40まで寝床に番札が付けられていたがどう数えても敷布団が20組しかない。 この日は二段ベッドの上を3人で独占できてあずましい。 談話室でくつろぎながら夕焼けを待ってると先ほど涸沢岳をヘロヘロになって登ってたテント装備のおじさんが漸く到着した。 疲れきってテントの設営もままならないのか結局小屋に入ってきたがあの気概は見習うべきだ、 けどよろよろしてちょっと危なかしい感じだった。 ここの食事は朝・晩とも昨日より良く、トイレも全く匂わずとても感じの良い山小屋だった。 ただ2時過ぎには廊下をバタバタ歩き出す音や、話し声に起こされる。 星が綺麗だと聞こえたので外に出てみると満点の星空に三日月が出ていた。 予報通りいよいよ晴れのジャンダルムを踏めるぞと意気込んだ。 |
<8/2 小雨のち曇り 穂高岳山荘〜ジャンダルム〜新穂高温泉> 山小屋の朝は早く、朝食を5時に済ませ山荘を出る。 御来光は見えなかったが小さくシルエットになった富士山や南アルプスの山々が雲海に浮かんでいた。 小屋前の石垣(上右)を登れば奥穂高岳山頂かと思ったらこれは手前の小山だった。 小山と言っても初っ端から2段バシゴで結構な登りに息が切れる。 途中ハアハアゼイゼイしてる先行者が道を譲ってくれ、 とても快調なペースで登れるのは良いが悲しくもどんどん雲の中に入って行った。 |
浮石に注意しながら山頂を目指すと写真で見たことのある鳥居が目に留まった。 生憎の霧雨で景色は何も見えないが日本で三番目に高い奥穂高岳のピークを踏めて嬉しい。 岩陰でザイルを畳んでる数名のグループと、 部屋が一緒だった本格装備の2人連れはジャンダルムを諦め前穂高岳方向に下って行った。 急に我々だけになって寂しくなったが霧でジャンダルムの方角が分からず初めてコンパスを出した。 地図上では破線で示され一般の登山道でないことを表しているがルートは明瞭な筈だ。 歩き出してすぐ「西穂高岳→」の標識があり、ガレ岩を下ってゆくとペンキ印が見えてほっとする。 そしてガス中にぼわっと大きなリッジが見え、近づくと基部に「ウマノセ」と書かれていた。 おーいきなりきたか!切り立つリッジ上を信州側から飛騨側に移ると眼下に滑落したであろう青いメットなどが散乱して、 初っ端から厭な物を見せられる。 |
岩が濡れてるので慎重に歩く、 間髪いれず二つの岩峰が現れ「ロバの耳」ではないかということになった。 すかさずカナちゃんがポーズを取り、ここはピークを通らず垂直に近い壁面をトラバースして行く。 そして次の岩峰へと至る。北さんが「これがもしかしてジャンダルムじゃないの?」、 私「こんな小さいわけないでしょ・・」 とか言いながら、もしそうだったら直登ルートがある筈だと探す。 南岳小屋で会った救助隊のおじさんが直登するならロープを残置しておいたから簡単だよ。 と言ってくれたので見逃す訳にいかないがどうもここじゃないようだ。 ところがペンキ印を辿ってトラバースし終わると、岩壁に小さくジャンダルム(右上)と書かれいて唖然とする。 やっぱりこれがジャンダルムだったのか? 今更戻る気にもならずそのままノーマルルートから山頂を踏んだ。 「ジャンダルムはガスの中〜♪」とても呆気ない登頂になってしまったが満足である。 いつまで待っても絶対に晴れそうもないので先を急ぐことにした。 すると北さんが突然雄叫びを上げる!長年の夢が叶って感無量だったらしい。 |
ジャンダルムから天狗ノコルまで一気に下降するのかと思ったら ルートは一旦、陵線を大きく外れ上高地側に巻くように下る、 印があるもののはたしてコースが合ってるのかちょっと不安だった。 再び陵線から今度は飛騨側のV字に開いた岩の隙間を下る。(左上) ルート全般に言えることだが写真や遠めにはザイルでも要りそうな切り立つ壁に見えるが実際はそうでもなく、 ホールドは幸せなガバがいっぱいで手掛かり足掛かりに困らない。 今回ザイルを持つかどうか迷った挙句、補助ザイルを持参したがこれすら出番はなかった。 天狗ノコルが近づくと先行する二人に追いつく、 結局この日は西穂に向ってるのは我々とこのパーティーのみ、 殺伐とした風景の中に人を見たのと、急に晴れ間が出てきて嬉しくなった。 |
天狗の頭(左上)へ鎖が数多く付けられた岩場をガシガシ登ると頂にポールが立っていた。 下りは大きな逆層スラブになっていてちょっと面白い(右上)、 岩盤が鎧のように斜めに積み重なって結構な高度感である。 岩角から頼り無さそうな鎖が垂れ「危ない持つな」と書かれてるものがあった。 持つなと言うくらいなら撤去すれば良いのに・・と思ってると、 これをぐいぐい引っ張っりながら登ってくる人がいる。 初めて西穂高岳から歩いてきたグループとすれ違ったがずいぶんばらけたパーティーで、 最後尾の女性2人が渇を入れられながらフリーで登って来たが、 何も無理させないで鎖を使わせるとかロープを出せば良いのにと思わせる登り方だった。 間天のコルに下って穂高岳山荘のお弁当を食べる。 朴葉に包まれた酢飯に岩魚の甘露煮が付いて美味しい。 続く間ノ岳(左下)もなかなか急峻な山だがまるで岩屑が積み重なって出来たような山である。 この頃よりすれ違いが多くなったがガスの中から落石が降ってきたら一貫の終わりだ、 上に人の気配が無いか気を遣う。 素っ気無い山頂だったが結構な込み合いで、交代で狭いピークを踏んだ。 |
間ノ岳からは赤茶けたガレガレのルンゼを急降下する。 コルから西穂高岳まで小さな岩峰を二つ越えねばならなず、 岩棚のトラバースや長いクサリ場などもあってそう易々と頂きを踏ませてくれない。 そしてハイマツの出現にほっとしながら稜線を辿ると西穂高岳山頂だった。 出発から6時間、緊張から解放され、縦走を完遂した喜びが沸いてくる。 山頂には日帰りの登山者が2人居ただけだったが、 ピラミッドピーク(右上)と西穂独標(左下)は人が数珠繋ぎになってる人気の山だった。 その中にテントを担いでこれからジャンダルムに向かうと言う学生グループに驚く、 時間的にかなり遅く、リッジ上で夜を明かす積りだろうか?他人事ながら心配になった。 今日は条件が悪いにも関わらず同じ向きに2組、逆向きに10組とすれ違ったが、 残念なことにその中の女性一人(ツアー参加)が滑落死したのを後で知る。 ここはノーマルルートとして最難関と言われているが慎重に歩く限り特別な難しさは感じない。 ただ足下が断崖なので落ちれば死ぬ・・という緊張感を維持しながら歩き通す気力と体力が必要である。 今回この悪天の中で無事やり遂げれたのは様々な幸運も重なった。 展望が無くて残念だったがメンバーと共に充実したひと時を過ごせ満足している。 |